グレーな彼女と僕のブルー
 程なくしてパトカーのサイレンが鳴り響き、人々の視線がこの先の交差点に集中していた。

「……なんなんだ、一体」

 突然のことに脱力するが、いつまでもくっ付いて離れない紗里を思い出し、「おい」と多少の赤ら顔で呼び掛けた。

 小柄で華奢(きゃしゃ)な肩に手を置いて、紗里を引き剥がそうとするのだが。

 ヌルッとした感触が手のひらに伝わり、視覚で血が付いているのを理解した。

「っ、紗里!?」

 彼女は辛そうに顔を歪めたまま、僕から離れた。右手で左の二の腕を押さえている。

「もしかして、さっきの強盗に??」

 僕が気付かなかっただけで、男は刃物を隠し持っていたんだ。

「っと、とにかくすぐに病院に行かないと!」

 僕は慌てふためき、鞄の中からハンカチを出した。

「大丈夫だよ、言うほど切れてない」

「でもっ、ちゃんと処置した方がいいよ。っあ、念のため警察の人に言っておいた方が」

「ほんとに、いいから……っ!」

 その一喝で、僕はグッと口を噤んだ。

 紗里は顔をしかめたまま、ガードレールにもたれるようにして立った。ハァ、と荒いため息をこぼす。
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