グレーな彼女と僕のブルー
 警官が集まる交差点を、細めた目で凝視し、僕も釣られてその現場を確認する。数人の警官に囲まれ、強盗の男は敢えなくお縄についていた。

「ごめん、借りるね」

 ようやく紗里が僕の手からハンカチを受け取った。

「ああするしかなかったの」

 ……てことは。

「やっぱり……右目で……?」

 うん、と紗里が頷いた。

 暫く無言で傷を押さえていたのだが、彼女は幾らか笑みを浮かべ、「それに」と言葉をついだ。

「あたしと恭ちゃんは……運命共同体でしょ?」

「………え」

 紗里の目が優しく細められて、ドキッと心臓が飛び跳ねる。一瞬だけ周りの音という音がかき消された。

 赤色灯を回したパトカーから再びサイレンの音が戻ってくる。今しがた捕まえた強盗を警察署に連行するのだと思った。

「やっぱり。……救急外来に行こう。ここからそんなに遠くないし」

 若干、掠れた声で言い、俯いた。

 来た道を戻ろうと踵を返した。紗里はかすかな声で返事をし、僕に付いて来る。

 彼女の顔が上手く見れないのは、おそらく耳まで赤くなった今の顔を見られたくないからだ。

 僕は紗里の言葉に酷く動揺していた。
< 144 / 211 >

この作品をシェア

pagetop