グレーな彼女と僕のブルー
 一体どういう意味合いでそんなことを言ってくるのか、全く理解できない。また僕の反応を見て、からかっているのかもしれない。

 ヒトの気も知らないで……。

 市立病院に着くまでの間、僕たちはほとんど無言で歩き続けた。


 強盗から負わされた紗里の怪我は、幸いにも軽症で、二の腕を二針縫うだけで済んだ。

 済んだものの、完治しても傷の跡は残ると言われた。それに対して、紗里は気にも留めていないのか、納得し、医者に礼を述べていた。


 *

 秋が終わりを告げて、朝の空気が肌を突き刺すようになった。

 十一月を迎えた最初の祝日。僕は母の言葉通り、無事に引っ越しを終えて、新たな場所に住まいを構えた。

 自室として使っている廊下側の洋室で寝起きし、開けたばかりの窓から朝の澄んだ空気を肺いっぱいに取り入れた。

 体内の細胞がビックリして脳だけでなく体も目を覚ます。

 そこかしこで咲く金木犀の香りが空気に混ざって微かな匂いを運んでくる。

 カラカラとガラス戸を引いて閉め、僕は部屋に置いたデスクセットを見つめた。

「恭ちゃんっぽい」と言って笑っていた、あの日の紗里の顔を自然と思い出していた。

 引っ越し当日の朝。僕はありったけの勇気を振り絞って紗里に言った。
< 145 / 211 >

この作品をシェア

pagetop