グレーな彼女と僕のブルー
「ラインのID、交換しよっか」と。紗里は目を丸くし、幾分驚いていた。「いいよ」と返事を貰えて、心の底から安堵したのを覚えている。

 あれから数日が経ち、その間に微々たる回数だがやり取りはした。けれど、僕から何かしら送っても、ほとんど既読スルーで紗里からはたまに「うん」とか「そうだね」といった相槌とスタンプしか送られてこない。

 いつだったか誠がこう言っていた。

 ーー「三通に一通ぐらいしか返って来ないし、ほとんどスタンプだし。完全に脈なしだよ」

 僕自身も"そういうこと"なんだと思う。居候中の従姉弟で距離が近いから、紗里はあんな態度で接していたんだろう。

 正直なところ、調子に乗っていた。

 思わせぶりな言動ばかりをする紗里も、もしかしたら僕に好意を寄せているんじゃないかと。完全に勘違いをしていた。

 とんだピエロだ。

 赤城家を出てからというもの、僕に本来の平穏が戻ってきたわけだが、今さら紗里と関わらないという選択はなくて、校内で会ったら必ず声をかけた。

 ひとことで言うと、紗里は冷たかった。口数が少なく、いつも暗い顔をしていた。
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