グレーな彼女と僕のブルー
 紗里の言っていることは単なる憶測に過ぎない。そう頭では思うのに、言葉として吐き出せない。

 準備予知として、これまでに何度も怖い映像を右目で視てきた彼女だからこそ、憶測という曖昧な表現では言い含めることはできないと思った。

「それにね、恭ちゃん。あたしもうすぐ……逮捕される」

「……っえ?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった

 ざぁっと雨足が強まり、少し風も出てきた。地を穿つように降る雨は、四方八方に飛び散り、僕らの足元を更に濡らした。

 ……タイホ。今、逮捕って言ったのか?

「なんの冗談だよ?」

 真顔で問いかけると、紗里は眉を下げて弱々しく微笑んだ。

「この頃ね。家の近所で刑事さんを見かけるの。だから、もうそろそろだと思う」

「いや、待てよ。逮捕って何で? おまえ何かしたのかよ??」

 遠方から急に明かりを照らされた。一台のセダン車が小さな水飛沫を上げてこの住宅地を横切り、ほど近い場所で停止した。

 ざわざわと嫌な予感がした。

 運転席と助手席が開き、二つの傘が掲げられる。紺と黒の二色だ。

 スーツ姿の大人の男性と女性が降りてきて、こっちを見ていた。

「ごめんね〜、お話中。ちょっと良いかな?」
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