グレーな彼女と僕のブルー
 先月末まで寝起きしていた洋室でノートと向き合い、今紗里に何が起こっているのか、自分なりに考えをまとめようと思っていた。

 紗里は"火をつけたから逮捕される"と言っていた。

 何故そんなことをしたのかは分からないが、放火は重罪だ。そしてこれまでのことを考えると、紗里が何か不可解な行動を起こすときは、たいてい例の準備予知が絡んでいる。

 紗里の右目が読み取った映像を従順にこなすことで、人助けに繋がる予知能力だ。

 火をつけて、結果、火事になった。

 ……これのどこが人助けなんだ?

 八の字眉毛で首を捻るより他はない。

 思い出せ、思い出せ! 火事に遭ったあの日のことを……!

 僕はシャーペンを握りしめた右手で、何度か自分の頭を小突いた。

 眉間をしかめたまま目を閉じて、あの夜の喧騒を頭の中で再現した。

 銀色の隊服を着た消防士の人が絶えず動き回っていた。放水の音や好奇心からより集まった野次馬連中の話し声、放心する僕を呼んだ母の声。

 およそ一ヶ月前のあの日のことを、できる限りで思い出していた。

 あの日、母は言っていた。
< 156 / 211 >

この作品をシェア

pagetop