グレーな彼女と僕のブルー
 眉間にシワを刻んだまま、僕は目を宙に持ち上げた。

 道路橋で秘密を打ち明けてくれたときの紗里を思い出し、あのとき言われた言葉を頭の中に呼び戻した。

 ーー「あたしはあたしが関わることでそうなる未来を回避しているの。詳細に視えた行動になぞらえて動くことで、重症化もしくは死ぬような事故や事件を未然に防いでいるの」

「もしかして……」

 ポツリと漏れた独り言が部屋の空気に溶け込んだ。

 本来、紗里が視てしまった未来では死人が出たんじゃないだろうか?

 たとえば火元になった隣人宅。

 隣人が外出せずに在宅していたら、火の勢いと回りが早ければ、逃げることもできずに死んでいたかもしれない。

 ここで重要になるのは、建物が焼けたという事実ではなく、死傷者が出なかったという事実だ。

 紗里は隣人を外に出すために動いたのだとしたら……?

 そうだ。

 注意喚起として僕の家の庭なんかで何かを燃やし、その臭いとか煙りで隣人を外に出した。このまま在宅する不安をそうやって与えたのだとしたら、それは隣人を外出させるための準備予知に繋がる。

 けど、そんなに上手くいくものだろうか……?

 全ては憶測に過ぎないが、紗里が僕の家で火をつけたことと、それが準備予知だったという前提で考えるなら、これしか辻褄が合わない。
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