グレーな彼女と僕のブルー
 若干たじろいで振り返ると、向かいの家に住んでいるおばさんがちりとりと箒を持ったまま怪訝な顔で僕を見ていた。

「あ」と僕が口を開けるのと同時に、おばさんが「あら?」と声を上げる。

「もしかして、坂下さんとこの?」

「……はい」

 お久しぶりです、と形ばかりの挨拶をする。

 火事があったあの夜。「何でも放火の可能性もあるらしい」と言っていた好奇心旺盛なおばさんだ。

 いきなり家を失った僕に同情してなのか、それとも本当にただの興味本位なのか、おばさんはその後どうしているかを尋ねてきた。

 世間話だと思って仕方なく当たり障りのない会話をする。親戚が近所に住んでいたので引っ越し先が見つかるまでは母と居候をしていた、と。

 おばさんはちりとりと箒を置いて頷きながら「急なことだったのに、ある意味、運が良かったわね〜」と微笑んだ。

「……あの。結局あの火事って、放火だったんですかね?」

 このままおばさんに会話の手綱(たずな)を握らせていたら、延々とどうでもいい世間話をされそうな気がしたので、僕は本題を切り出した。
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