グレーな彼女と僕のブルー
「私ね」とふいに蓮田さんが話し始めた。

「実は、八月の終わり頃からストーカー被害に遭っていたの」

「え?」

「お店での接客中に会った男の人だと思うんだけど。店舗にもやたらと電話がかかってきて……今日蓮田さんは出勤してますか? って」

「………あ、」

 そこまでを聞いて、さっきの矢吹さんの対応を思い出した。もしかすると、僕のこともそんなストーカー括りで見られていたのかもしれない。

「最初はそんな電話だけだったんだけど。家まで尾けられる日もあって。いつも慌てて家に帰って、そのまま閉じこもってた。
 それがある日を境に携帯にまで無言電話がかかってくるようになって、一度警察にも相談に行ったの。
 でも電話はいつも非通知だったし、何か危害を加えられることはなかったから、何もできないって言われて……。毎日が不安と恐怖でいっぱいだった。
 だから火事があったあの日。次はおまえの家を燃やすって、単純に脅されているような気になって……怖くなった。
 今坂下くんの話を聞いて、あのボヤは違ったんだって分かったけど。
 実際に家は燃やされたし、あのままいつも通り部屋でテレビを観ていたらと思うと……ゾッとする」

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