グレーな彼女と僕のブルー
 首筋にナイフを突き付けられているのを見て、一気に血の気が引いた。身がすくむ。

 僕はあっさり捕まったのだと理解した。刑事ドラマなんかでよく見る、人質というやつだ。

 ちょっと待て、ここ警察署だよな?? なんでこんなことになってんの!? 何かの訓練か??

「動くなッ! 動くとこいつをぶっ殺すぞ!?」

 耳元で怒声を上げながら、男は僕に向けた刃をグッと首に押し当ててくる。切れるのが怖くて、僕は顎を持ち上げた。

 どうやら訓練じゃないっぽい……。

 男が怒鳴る対象にようやく視線を移した。非常用の裏口なのか、そちらを背に昨日見た男性刑事と女性刑事が険しい顔つきで立っている。

 女性刑事のすぐそばには紗里もいる。青ざめた顔で口元に手を当てていた。

「近付くなよ!?」とそばでまた男が叫んだ。

 なんでこんなことに……?

 僕は自分の置かれた状況を冷静に分析してみた。

 たとえばそう、刑事がこの近辺で職務質問なんかをしていて、この男が怪しいから警察署まで連れて来た、そして逃げられた。逃げた先にいたのが一般人の僕で人質にされた。たまたま運が悪かった……そういうことだろうか?
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