グレーな彼女と僕のブルー
 体の奥底に溜まった勇気のカケラを、丁寧に拾い集め、言うんだ、と内心で叫んだ。よし、と自分に喝を入れる。

「あー……、あのさぁ」

「うん?」

「あの……」

 歩みがのろくなる僕に倣って、彼女が足を止めた。「なに?」と言って小首を傾げている。

「……えと、」

 言葉は口内に留まりそこから先が続けられない。代わりに頬から耳にかけてがカッと熱くなった。首に巻いたマフラーに口元を埋める。

 好き、というたった二文字が喉に引っかかって出てこないのだ。

「どうしたの?」

 好きと言え、言うんだ!

 必死にエールを送る内面の僕に対して、口からこぼれた言葉は、それよりもずっと長いものだった。

「俺と紗里って……ただの従姉弟?」

「え」と紗里が呟く。

「……なに言ってるの?」

 そんなの決まってるじゃない、と続けられそうな気がして、僕は身を固くした。

「恭ちゃんはあたしの彼氏でしょう?」

 ……え。

「あたしのこと……、好きじゃないの?」

「っ、好きだよ! すごく……好き」

 勢いづいて二回も言えたことにハッとする。

 紗里はピンク色に染まった頬を持ち上げ、満足そうに笑った。

「十年後でもいいよ。あたしの夢、叶えてね?」



 〈了〉


ご愛読いただき、ありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵人)
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