グレーな彼女と僕のブルー
 恭ちゃんの家の門扉から中に入り、門柱の陰になった場所でしゃがみ込んでいる。手には新聞紙と雨傘とマッチだ。ざわざわと嫌な予感がした。

 影のあたしはそこでマッチを擦り、傘を燃やしている。狼煙(のろし)のように立ち昇った煙に隣人のお姉さんが気付き、お姉さんの外出を促したようだった。

 それから約一時間半後、さっきの映像と同様に火事は起こった。火事になる未来は変わらないが、死傷者はゼロの結果に変わっていた。

 人が死ぬのは嫌だ。たとえ自分と関わりのない人間でも。

 けれど。

 何で放火までしなければいけないの??

 あたしが点けた火は、お隣りのお姉さんによって消されていたけれど、未来視では実際に火事が起こるのだ。

 あたしのすることがボヤで済むとしても、その証拠は残らない。

 放火は重罪なんだ。不審人物として警察に捜査されたら捕まるかもしれない。

 どうしよう……。

 戸惑うものの、やらなきゃいけないのは分かっている。分かっていてこれを見過ごせば、死人が出る。

 右目を駆使し、あたしが行動しなければいけない時間を再三、確認した。

 重い足取りで自宅へとたどり着き、玄関を開けたとき。フッと右目だけで、また影を捉えた。
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