グレーな彼女と僕のブルー
episode3.


 結局のところ、ジャージのお礼は言いそびれてしまった。

 翌日の日曜日は、母と一緒に半分焼けてしまった家へ赴き、今後の生活に必要な物やまだ使える家具を分別した。

 手で持ち帰れる物を別として、少し大きな物は赤城家へ送ってもらうよう手配もした。火災ゴミの処分も含め、おおかた一日を費やした。

 僕の愛用の自転車はそのまま乗って帰った。

 そして月曜日の朝。

 朝ご飯よ、と食卓に呼ばれ、斜向かいに座った紗里の制服姿を見て面食らった。うっかりブレザーに付いた組章を凝視してしまった。多分本人にも気付かれたと思う。

「じゃあ恭介、行って来るわね」

「あ、うん」

 出勤にバタバタする母に「行ってらっしゃい」と声をかけ、そこでようやく座ることができた。

 紗里が叔母さんの用意したトーストを齧りながら、ちろりと目を上げた。何事も話さず真顔で咀嚼している。

 珍しく挨拶すら口にしない紗里は、サラダの最後のひと口を食べ終えてから早々に椅子を引いた。

 そのまま食器棚にあるグラスを出し、冷蔵庫の前でオレンジジュースを注いでいる。

「紗里、食べたものぐらいちゃんと下げなさい」

 不満そうに言いながら、紗代子叔母さんが僕にもトーストとハムエッグを出してくれる。

「……。分かってるし」

 ジュースを飲み干したあと、紗里は再びテーブルに戻り、食器をシンクに置いて出て行った。

 なんだろう。叔母さんと喧嘩でもしてるのかな?
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