グレーな彼女と僕のブルー
 右往左往する自動車の群れを見るとはなしに見つめ、信号機の赤い人型が緑に変わるのをじっと待った。

 程なくして自動車の流れが止まり、歩く緑の人型が僕にスタートの合図を送る。

 ここからは一人で登校する。隣りを気にする必要なんてない。そう思うのに、制服の裾に負荷を感じて歩みが止まる。

「あ。ちょっと待って、恭ちゃん」

「っえ」

 もうじきカラーコーンを通り過ぎるというところで、紗里に引っ張られ、歩調が狂った。

 紗里はどういうわけか、カラーコーンの一つを持ち上げ、さっき渡った横断歩道の端っこにそれを移動させている。車には当たらない場所だが、車の横を走り抜けて行くバイクが通れない。

「……何やってんの?」

 別に話すつもりなどこれっぽっちも無かったのに、うっかり疑問が言葉としてこぼれた。

「……うん。ちょっとね」

 紗里は曖昧に首を傾げながら、僕から目線をそらした。僅かに上がった口角は今の行動に何かしらの意味があると言っているようだった。

 いやいやいや、あんなところにカラーコーンを置いたら走って来たバイクが通れないじゃん。
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