グレーな彼女と僕のブルー
 横断歩道の信号機がちょうど緑の人型に変わり、さっきの少女が弾かれたように走り出した。

 ……え。

 突如として、キキィ、と地面を激しく擦るスキール音が鳴った。

 先ほど紗里が置いたカラーコーンの前で急ブレーキを余儀なくされたバイクだった。

 ……え??

 なんだ、今の……。

 小さな女の子は音に驚いて尻もちをつき、泣いていた。ベビーカーを押したお母さんが慌てて娘に駆け寄っている。

「……あの場所。街路樹と日差しのせいで歩行者が見えにくいんだよね。信号無視もたまにあるみたいだし」

「え?」

「特にバイクのね」

 素っ気なく呟き、紗里は再び歩き出した。

 今のって……。

 僕は慌てて紗里の後を追った。

「今のどういう意味だよ」

「なにが?」

「なにがって……」

 紗里がカラーコーンを置かなければあのバイクは信号無視をしてそのまま走っていたかもしれない。そうなるとあの少女は……。

 事の顛末を想像し、ゾクっと背筋が寒くなった。

「何となく思いつきでやっただけ」

 青ざめた僕を慰めるように、紗里が優しく微笑んだ。細められた三日月型の瞳にまた捕われる。綺麗な灰色だ。

「っあ! オッスー、恭介〜」
< 34 / 211 >

この作品をシェア

pagetop