グレーな彼女と僕のブルー
 そこは副教科の際に移動が必要となる特別棟にあるので、朝は特にひと気がなかった。

 へぇ。こんなところ、あったんだ……。

 一年ダブっていると言っていただけあって、彼女は僕よりこの校舎に詳しいんだと思った。

 教室の扉を後ろ手に閉め、視線をあちこちに泳がせていると、窓際まで進んだ紗里が「それで」と言いながら振り返った。

「あたしになんの話?」

 それまで見ていた机や椅子の群れから目線を剥がされて、透き通るようなグレーの瞳にあっさりと捕まった。

 見るな、と心で念じてサッと足元へ視線を下げた。

「俺が居候してること、黙っててくれるかな」

「……え」

「今朝、俺の友達に話しただろ。火事が原因で居候することになったって」

 紗里は少しの間をあけ、「うん」と返事をした。

「居候は一時的なもんだしさ、いちいち変な誤解をされたくないんだ。だから誰にも言わないでほしい」

 下げた視線をようやく持ち上げると、紗里は若干口元を緩め「ふぅん?」と楽しげに笑った。

「それはつまりお願いってこと?」

「っそ、そうだよ」

「じゃ〜あ〜」

 一歩二歩と足を出し、紗里がすぐ目の前に立った。
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