グレーな彼女と僕のブルー
「口止め料ちょうだい?」

「はぁ!?」

 なに言い出すんだ、こいつは。

 行動が理解できなくて思い切り顔をしかめてしまうが。彼女が顎に添えた人差し指とそれを差す桜色の唇を見て、心臓がドンと脈を打った。

 熟れた果実のような唇をツンと僕に向け、紗里は妖しい瞳を細めた。

 心臓の脈が狂い始める。ドキンドキンと早鐘を打つ心拍に促され、背中に妙な汗までかいてしまう。

 キスをねだるような仕草に暫し固まっていると、不意に彼女が「っふふ」と吹き出した。

「言わないよ?」

「……え、ああ」

「友田くんには話しちゃったけど。それ以外は言わない。秘密の関係ってやつ? そっちのが面白いし」

 クスクスと肩を揺らしながら笑い、紗里は流し目で僕を見た。

「ああ、それにしても。さっきの恭ちゃん、おかしかったなぁ〜」

「っ、おまえなぁ!」

 完全にからかわれていると察して、つい口調がキツくなる。

 突然ガラガラ、と音を立てて教室の扉が開いた。

 っえ!

 当然僕は体をビクつかせる。誰も来ないと思い込んでいただけに、思いのほか驚いてしまった。
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