グレーな彼女と僕のブルー
「お腹空いてるわよね、すぐご飯にするから」

 戸棚横のフックに吊り下げたエプロンをサッと羽織り、母が台所のシンクで手を洗う。晩ご飯の献立を聞くと、時短でできる焼きそばだと返ってきた。

「慌てなくていいよ、さっきみんな間食でホットケーキ食べたところだから」

「あら、そうなの?」

 何故か母は嬉しそうに笑う。僕が調理したと察したからだろうか。

「あのさ」

「ん〜?」

 冷蔵庫から必要な食材を取り出す母へ、躊躇いがちに確認をした。

「引っ越しとかって……今のところどうなってるの?」

「……うん」

 沈んだ声の調子からほとんど進展のないことを感じ取る。

「保険会社に連絡を入れたら、当面の宿泊費なんかの一時金が出るみたいなの。家財に関しての保険金も後日請求できるみたいだし」

「……そっか」

「だからそれを」と続けて母は野菜を洗う。

「引っ越し費用に充てようかなって。引っ越し先の物件に関してはまだちゃんと探していないけど、学区内で相談するつもりだから。
 お金の都合がついたらすぐにでも移るつもりよ。だいたい早くても一ヶ月ぐらいはかかると思うけど……」

 一ヶ月か……。

「分かった」
< 45 / 211 >

この作品をシェア

pagetop