グレーな彼女と僕のブルー
 それぐらいは、まぁ仕方がないだろう。

 母も日々の仕事や家事で忙しいのだ。

「授業の予習はやったの?」

 困った顔で笑みを向けられて、「あとでやるから大丈夫」と答えた。

 平穏な日常を取り戻すには、もうしばらく時間がかかりそうだが、ゴールはそう遠くない。

 リビングに置きっぱなしの通学鞄を持ち上げる。ソファーに座りながらテレビに熱中する姉弟(きょうだい)を横目に捉え、ため息がもれた。

 母の用意した晩ご飯を胃に入れてから、いつもの洋室に引っ込んだ。寝室として使わせてもらっている部屋だ。その頃には仕事を終えた紗代子叔母さんも帰って来ていた。

 叔母さんが置いてくれた折りたたみテーブルで課題に向かっていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。

「恭ちゃん、お風呂あいたよ?」

 相変わらず返事をする前にドアが開き、風呂上がりの紗里がひょこっと顔を覗かせた。

「分かった」

 ふわふわといい香りが空気を伝って流れ込んでくる。扉がパタンと音を立てて閉まる。

 知らず知らずのうちに、チ、と舌打ちが漏れていた。重いため息をこぼし、ガシガシと頭を掻く。

 叔母さんに借りていた段ボールの中から着替えを取り出し、浴室に向かう。
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