グレーな彼女と僕のブルー
 紗里は浮き輪を抱えたまま石ばかりでできた、足場の悪い川べりを前に前にと進んでいる。ちょうど淵にまでたどり着くとそこに腰を下ろした。

 一体何をするつもりだろう?

 車のヘッドライトや街灯の光が照らさない場所なので、僕の周囲は見えづらいが、彼女の方は懐中電灯の明かりでよく見えた。

 紗里は手にしていた浮き輪を少し離れた場所に軽く投げ、流していた。

 まるで灯籠流しのような雰囲気すら漂っている。

 何であんなことをするんだろう?

 僕は怪訝に眉を寄せ、暫し呆然と小さな背中を見つめていた。

 思えば紗里の行動はいつも不可解だった。

 数年ぶりに再会した日に、僕が来ることを前もって知っていたこともそうだし、いきなりな思いつきで車道の端にカラーコーンを置いたこともそうだ。

 今しがた浮き輪を流したあの行動にも何か理由があるのだろうか?

 理由、と考えたところで先日大和から聞いた台詞を思い出した。

 ーー「紗里の目には理由があるんだ」

 カラーコンタクトを入れたあの目にどんな理由、どんな事情があるのか気にならないわけじゃない。けれどそれは単なる好奇心で、別に知らなくてもいいことだ。
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