グレーな彼女と僕のブルー
「恭ちゃんの喉仏、一度でいいから触ってみたいなと思ってたの。いい声になるものだね」

「っ、誤魔化すなよ」

「明日になれば分かるよ」

「え……」

「浮き輪の理由」

 そう言って流し目で僕を見たあと、紗里は懐中電灯を拾い、またそれを照らした。

「恭ちゃん、早く帰ろう? 今日の金曜ロードショー、楽しみなんだぁ!」

「……あ、ああ」

 全くもって、腑に落ちない。

 あんな理由で納得できるはずがなかった。

 明日になれば分かるって……。そんなの予知能力か何かだと勘ぐってしまうじゃないか。

 なかなか歩き出さない僕を振り返り、紗里が「おーい」と声を上げた。仕方なく家に帰ることにした。


 *

 雨音で目を覚ました。布団から抜け出し、洋室の窓を開ける。

 昨夜から降り出した雨は、朝になっても止んでおらずしつこく降り続いていた。雨のせいで気温が下がり、肌寒い。

 灰色の中に沈むくすんだ景色を見て、ハァ、と息を吐き出した。

 窓を閉める時、サッシの外側に小さな蜘蛛の巣が張られているのに気がついた。
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