グレーな彼女と僕のブルー
 デコレーションの仕上げにホイップクリームを絞る紗里を見て、正直な気持ちが溢れた。

「なんて言うか……親孝行だよな」

「え?」

 絞り袋を慎重に扱いながら、紗里が顔を上げた。

「紗代子叔母さん、絶対喜んでくれるよ」

「……うん。だといいな」

 えへへ、と力なく笑い、紗里は盛り付けの苺を順に載せていく。

「ママには。去年散々迷惑をかけているから……その罪滅ぼし」

 寂しそうに笑う彼女の笑顔に多少の疑問が湧いて、首を捻った。

 もしかして。留年したことを言っているんじゃ……?

 だとしたら、紗里にとって今日のサプライズはかなりの思い入れがあるはずだ。

 敢えて触れずに、僕は淡々と調理を進めた。

 仕上がりに満足したのか、紗里は「終わったぁ」と伸びをしたあと、リビングに向かいテレビをつけた。

 まだ後片付けが残っていたが、僕も気が抜けてなんとなくテレビに目を向けた。

 洗い物とは別に、昨日できなかった授業の予習にも手を付けなければいけないと分かっていたのだが。今は机に向かう気分にはなれない。

 録画したドラマかアニメでも観るのかなと何気なく思っていたら、紗里がチャンネルを合わせたのは夕方のニュース番組だった。
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