グレーな彼女と僕のブルー
《……今日午後二時過ぎ、川べりで遊んでいた六歳の男児が足を滑らせ、下流へと数十メートル流されました。流されたにもかかわず一命を取り留めたのは、その場に偶然流れていた浮き輪につかまったからで、その後近くを通りかかった農家の方に保護されました》

 淡々と原稿を読みあげるアナウンサーの女性と共に、水嵩の増えた川や助かる原因となった浮き輪が映し出された。

 右端の四角い画面がクローズアップされて、一面に大きく映し出される。

 黄色と橙色の派手な浮き輪に見覚えがあった。

 ニュースを確認し終えたのか、紗里が僕に意味深な目を向けて微笑んだ。

「これが理由だよ」

 そう言ってリモコンを向けるとプチンと映像を切った。

 これが理由……?

 昨日紗里が言っていた浮き輪の理由だ。

 つまり今日男の子が川で溺れて流されるのを、紗里はゆうべの時点で知っていたということだ。だから浮き輪を流した。

 映像の途絶えたテレビの前で、暫し茫然と固まってしまう。

 あり得ない現象を目の当たりにしてしまい、無意識に怖いと感じていたのかもしれない。

 紗里は眉を下げて、どこか寂しげな笑みを浮かべるとそのまま自室に引っ込んだ。

 もしかして、と妄想にも似た閃きが頭に浮上する。

 予知か……?

 それ以外、考えられない。

 あいつには人にはない、何か特別な能力(ちから)がある。そうに違いなかった。

 ***
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