グレーな彼女と僕のブルー
 どこか意外な様子で目を(しばたた)き、叔母さんは口元に手を当てていた。幾らか潤んだ涙を引っ込めるようにして笑い、「そう」と二、三度頷いていた。

 去年がどうだったのかは知らないが、紗里が留年したことで何かしらわだかまりがあったのかもしれない、そう思えてならなかった。

 思えば何が理由で紗里は留年したのか。気にならないと言ったら嘘になる。

 病気かなにか、もしくはイジメなんかで不登校になったのかもしれない。

 正直なところ、あいつは変だ。年上の余裕みたいなやつをいつでも感じさせるし、ーーまぁ実際、年上なのだがーー僕の予想を遥かに上回って行動する。

 学校ではどうなんだろう?

 今まであまり意識して見てこなかったけれど、やはり周りから浮いているんだろうか?

 あの未来予知みたいな突拍子もない行動はいつからだ……?

 不意にコンコン、と部屋の扉をノックされ、思考が中断する。目の前のノートは数行の英文を書いただけで、放置されていた。

「はい」と返事をすると、ためらいがちに扉が開いた。

「恭ちゃん、お風呂あいたよ?」

「……分かった」

 幾らかシャンプーの香りを残し、扉が閉ざされる。
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