グレーな彼女と僕のブルー
 遊びと言えば必ず発生する着せ替えイベントに嫌気が差し、ある時からサリーちゃんと会うのを拒んだ。

 一度ノーを突き付けてからは、何かしらに勇気をもらい、彼女と一切会わなくなった。

 日頃から気にしていた女顔を軽くやり過ごし、それから八年の歳月が流れた。


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 異端者が根城とする家に居候? 冗談じゃない。

 冠婚葬祭を除いては、金輪際(こんりんざい)、会わないでいたつもりの相手とひとつ屋根の下で暮らさなければならないなんて、一体どんな罰ゲームだ。

 タクシーで隣同士に座る母にノーと言いたかったが。あんな不幸に遭った後だ。僕の個人的な我儘をぶつける気分には到底なれなかった。

 僕は平和主義なのだ、母を困らせる言動はできるだけ控えたい。

 タクシーが『赤城』と書かれた表札の前で止まり、眉を寄せた。ここまで十分少々しかかかっていない。そう、意外と近所なんだ。

 僕に続いてタクシーを降りた母が、表札の下に埋め込まれたインターホンに人差し指を伸ばす。長方形のボタンを押し込む。
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