グレーな彼女と僕のブルー

　ピン、と軽快に跳ねて、ポーンと音を響かせる。歌手がビブラートを効かせるような美しい音色を感じるが、僕の心臓は暗い沼にズブズブと沈んでいくだけだ。

　頭上を覆い尽くす分厚い雲の層で今夜は星が見えない。

「いらっしゃい、美弥子(みやこ)。とんだ災難だったわねぇ。晩ご飯用意してあるから遠慮なく食べてね」

「ありがとう、お姉ちゃん」

　玄関扉が開き、紗代子(さよこ)叔母さんが明るく出迎えてくれる。母に優しい眼差しを向けたあと、その瞳は興味津々に僕へと注がれた。叔母さんは口をぽっかり開けた。

「まぁ、恭介！　大きくなったわねぇ〜、今高１だっけ？」

「……あ、はい」

「背も伸びて随分と男らしくなったじゃないの、陸上頑張ってるんだって？」

「はい。まぁ、一応」

　紗代子叔母さんは本当に嬉しそうに笑っていた。僕の背中をポンポンと押し、「ご飯たくさん食べるのよ？　今日はトンカツ揚げたから」と歓迎してくれる。

　少し照れ臭くなって、僕は無言で頷いた。母に倣い、玄関のたたきで靴を揃える。玄関の上がり段にボストンバックを置かせてもらった。