グレーな彼女と僕のブルー
「勿論病院に行った。痛くて目を開けていられなくて、涙みたいなものが止まらなかった。
 お医者さんからは角膜穿孔外傷(かくまくせんこうがいしょう)っていう診断を受けたんだけど、目を保護する角膜にほんの僅かな穴が空いていることと、蜂毒による感染で視力が低下するから最悪の場合、角膜移植が必要になるって言われたの」

 スラスラと流れるように説明されるが、病名や状態は想像しにくくなかなか頭に入ってこない。代わりに目の奥が痛くなった。

「それで……手術したのか?」

 うん、と紗里が頷いた。

「右目の視力が完全になくなって失明したからね。手術は上手くいったし、経過観察も問題なかった。
 でも術後から半年経ったころ、右目の色が変わったの。視力はちゃんと回復しているのに色だけ変わっちゃって……不安で何度か病院を受診した。けど、何も問題はないって言われたの」

 話の途中で俯き、紗里は暫し無言になった。左目に指を当て、おもむろに顔を上げた。

「……あ」

 紗里の目の、左右の色が違っていた。左目は深い黒目なのに、右目だけが明るいグレーだ。
< 94 / 211 >

この作品をシェア

pagetop