激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
そのまま駅に戻ろうかとも思ったが、この近くには颯真の働く月城不動産の本社ビルがある。
顔が見たいからと職場に顔を出すほど子供ではない。まさか会えるとは思ってはいないが、散歩がてら少し遠回りして彼の働くビルの前を通って帰ろうと、千花は少しウキウキした気持ちで歩みを進めた。
月城ビルは地下5階、地上48階の超高層ビル。オフィスの他にフードテラスや金融機関、コンビニ、クリニックも入っており、高層階には地上180メートルの眺望をもつレストランフロアが並んでいる。
エントランスである1階には広々とした空間に受付と『calando(カランド)』というカフェがあり、外にはたくさんの緑に囲まれたテラス席も配置され、都心でありながら開放的な雰囲気がある。
いつだったか仕事で行き詰まったらフロアの休憩所ではなく1階まで降りるのだと颯真が話してくれた。カフェでコーヒーを買い、ゆっくりとテラスを歩くことで頭をリフレッシュさせているらしい。
千花はそんなテラスを歩き、カランドで温かいココアを買おうと店へ向かう。
すると、入口横の窓ガラス越しに見た店内に、今朝見送った覚えのあるスーツを見つけた。
(あ、颯くん…!)
思いがけない偶然に驚き、休憩中なら少しは話せるだろうかと胸を弾ませていたが、どうやら1人ではなさそうだ。
それなら声をかけるのもよくないだろう。少し残念に思いながらその場を離れようとした千花は、颯真の隣に座っている女性を見て息が止まるほどの衝撃を受けた。