激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
(――――嘘……っ)
肩につかない程度の長さに切りそろえられたワンレングスの髪を大ぶりなピアスのついた耳にかけ、身体のラインが綺麗に出るカシミアのニットプルオーバーに、ベージュのタータンチェックのペンシルスカートを合わせた美しい女性。
どこからどう見ても約5年前、突然置き手紙ひとつ残して消えてしまった姉の弥生が、颯真の隣に座っている。
(…お姉ちゃん……、どうして……)
信じられない思いで呆然と立ち尽くす。
森野の父も颯真もあの手この手で探したが見つからず、結局この5年の間、弥生と連絡が取れたことはない。
千花も何度も連絡を試みたが、やはりスマホは変えてしまったのか1度も繋がらなかった。
それなのに……。
身体がカタカタと震え、頭がうまく働かない。
千花はふらふらと窓ガラスの前から入り口へ向かいカフェに入ると、何も注文しないまま2人が座るテーブルへゆっくりと近付いていった。
心のどこかでもう1人の自分が『早くお店を出なさい!』と叫んでいる。それでも千花は歩みを止められなかった。