激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

(あぁ…、やっぱり……)

全身が絶望の色に染まっていく中、頭の片隅にいる冷静な自分が呟いた。

(所詮私は身代わり。本物が帰ってきたなら、そっちがいいに決まってる……)

血の気の引いた唇から小さな乾いた笑いが漏れた。

なぜ嫉妬してくれただなんて期待したんだろう。

『結婚指輪という所有の証で、自分を束縛してくれているのではないか』だなんて、単なる思い上がりだった。

婚約してる時から何度も思い知らされてきたはずだった。

『弥生から連絡はない?』

そう聞く颯真の痛ましげな表情を見ては、ずっと姉を待っているのだとわかっていたはずだった。

どれだけ彼が姉を愛しているのか、痛いほど理解していたはずだったのに…。

恥ずかしさと虚しさ、それに身代わりと分かっていたはずなのに期待してしまった自分に怒りすら感じ、千花はぎゅっと唇を噛み締めた。

その後はどうやって自宅に帰ってきたのかも覚えていない。気が付いたら呆然と玄関に佇んでいた。

仕事と家事の両立を目指し掃除の手も抜いていないため天然石の玄関ホールは相変わらず真っ白に輝き、部屋に踏み入れなくとも高級な物件だということがわかる。

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