激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
いつまでもこの豪華さに慣れないのは、本来ここに住むはずだったのは自分ではないからだろうか。
のろのろと靴を脱ぎ、自分の部屋へ入る。ナチュラルテイストで揃えられた部屋は8帖ほどの広さがあり、大きな家具はソファとドレッサーとデスクのみ。
備え付けの大きなウォークインクロゼットは半分ほどしか埋まっていない。きっと弥生ならセンスのいい服やドレスでいっぱいにしたのだろうとこんなところでも自虐的に思う。
千花はアクセントとして選んだ朱色のソファに、コートも脱がずにどさりと座り込んだ。
(これから…どうしたらいいんだろう……)
何も言わず失踪してしまった姉が帰ってきた。
実家の両親でも妹の自分でもなく颯真に1番に会いに行ったということは、やはり弥生は颯真を忘れられず帰ってきたのだろう。
美人で誰からも好かれ、何事も優秀だった自慢の姉。いつも明るく自分の味方でいてくれる存在で、彼女が涙しているところなど見たことがなかった。
『自分勝手なのはわかってる。何度だって2人に謝る。でも好きなの…、我慢できなかった…ごめん…ほんとに、ごめんなさい……』
声を震わせ、颯真に好きだと言い縋る姉の姿が脳裏にまざまざと蘇る。そんな彼女の肩に、そっと手を置いた颯真。
一体彼は目の前で泣く元婚約者の姿に何を思ったのだろう。