激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

結婚式直前まで連絡を待っていたくらい好きだった女性が、5年ぶりに帰ってきてやっぱり好きだと涙を零したら…。

(そんなの、ほっとけないに決まってる…)

帰宅する少し前に知らない番号から3回、そして颯真から2回着信があった。きっとこの3回かかってきた番号が弥生のものだろう。千花はどちらにも出ることは出来なかった。

今は冷静に2人の話を聞ける自信がない。聞けるわけがない。

噛み続けた唇からは血が滲み、嗚咽を堪える喉の奥が焼けるように痛い。目頭が熱くなってきて、いよいよ涙を止められなくなった。

キャメル色の膝丈スカートに、ぽたりと丸い水滴が落ちて染みを作る。その染みが次第に大きくなっていくのを、どこか他人事のように眺めながら千花は俯いて涙を零し続けた。


どのくらいそうして泣いていたのか、カバンの中のスマホが再び振動する。

恐る恐る表示を見ると、そこには『霧崎陽菜』の文字。千花は縋るように通話ボタンを押した。

『もしもし千花?今大丈夫?この前言ってた忘年会の話なんだけどさ』
「…っ、ひ、陽菜、私……っ」

決して自分を傷つけることのない相手の安心する声を聞き、ずっと堪えてきた嗚咽を我慢できなくなった。

< 114 / 162 >

この作品をシェア

pagetop