激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
『え、ちょ、千花?…泣いてるの?どうしたの?』
何を聞いても泣き続ける千花に電話越しでは要領を得ないと判断した陽菜は千花の自宅に迎えに来ると、手際よく1泊分の用意を済ませ彼女の実家へタクシーで向かう。
「父は出張中で、母は友達と温泉旅行で今日は誰もいないの。だから気を遣わなくて大丈夫」
霧崎商事の社長宅だけあって立派な豪邸に入り、千花は陽菜に促されるままゆっくりと事の顛末を話した。
「そっか…、弥生さん帰ってきたんだ」
「……うん」
「それで、千花はどうしたいの?」
俯きながら全てを話し終えた千花は、陽菜からの問いに涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。
「弥生さんが帰ってきたところで、今月城さんと結婚してるのは千花でしょ?」
「…そう、だけど……」
確かに今、颯真の妻は自分だ。
だけどそれは元々姉の身代わりであって、自分は代用品。本物の婚約者が帰ってきたのに、このまま婚姻関係を続けていていいのだろうか。
「こんなことあんまり言いたくないけど…政略結婚だからこそ、いくら元婚約者が帰って来たからって、すぐ交代しましょうなんていって離婚するのも無理だろうし」
それは千花も重々承知だった。恋愛結婚とは違い、家同士、さらには会社同士の思惑も絡んだ婚姻関係は、かんたんに解消出来るものではない。