激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
「あの時、顔は笑ってたけど目の奥は笑ってなかった。山崎先生とか矢上さんに警戒してたっていうか、牽制したっぽかったし」
「…そんなこと」
ない、と言いかけてあの日の夜を思い出す。確かにあの時、颯真が独占欲や嫉妬を滲ませてくれたと千花も思った。
ウィーンでの新婚旅行以来、颯真は千花を妻として受け入れようと努力してくれていたと感じてもいた。
それでも……。
「ちゃんと話し合ってみなよ。今は冷静になれないんだったら、今日はうちに泊まっていけばいいし。ね?」
今日は水曜日。千花は明日は休みだが当然陽菜は仕事がある。
「…ごめんね、陽菜」
「気にしないの!大丈夫だから。もう、千花はすぐに遠慮するし思ってること溜め込んじゃうんだから。そういうのよくないって昔から言ってるでしょ!」
「…うん」
「ったくもー。千花が心配でおちおち合コンも行ってられないわよ」
「…合コン?行くの?陽菜が?」
「大学の同級生の紹介でね。怜士と結婚する気なんてさらさらないし。いい人がいるといいんだけどねぇ」
わざと茶化すように言ってくれる陽菜の気遣いをありがたく思いながらも、千花の心はなかなか浮上しなかった。