激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
会社の受付から連絡があったのは午後4時を回った頃だった。
『森野様という女性が月城部長に会いたいとお見えになっていますが』
森野という名字に心当たりはひとつ。千花は既に月城姓になっているし、義母がわざわざこの会社にアポなしでやって来る用件もない。そうなれば…。
(まさか……!)
颯真は秘書課で仕事をしているであろう宮城に内線で少し社を離れると告げ、足早に受付へ向かうと、エントランスにある大きなソファに座って待っている女性の姿を見つけた。
艶のある赤みがかったブラウンの髪は肩のラインで真っ直ぐに切り揃えられ、耳には大ぶりのピアス。長身のスタイルを活かすファッションに身を包み、背筋を伸ばして緊張した面持ちでこちらを見つめている。
その姿はどことなく品があり、彼女を知らない人が見ても上流階級の出身だと納得させるものがあった。
「……弥生」
「久しぶり、颯真」
5年ぶりの同級生との再会にしては、やはりどこかよそよそしさが漂う。それは弥生の罪悪感からくるものと、颯真の戸惑いと彼女に対して持っていた僅かな怒りによるものだった。
「急に来てごめん。忙しいのは分かってるんだけど、少し…話がしたくて」
「場所を変えよう。あまり時間はないから、そこのカフェでいいか」
「うん」