激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
颯真は弥生を連れ、エントランスを出たところにあるカフェ『calando』に入る。互いに飲み物を注文し、席につくなり弥生が本題を切り出した。
「……約束、破ってごめんなさい。今更顔を出すのもどうかと思ったんだけど…一時帰国することが決まったから、どうしても謝りたくて」
「一時帰国って…、今は海外にいるのか」
「うん、ニューヨークに」
どうりでどれだけ探しても見つからないはずだ。颯真は嘆息しながら弥生を見つめた。
「大学の卒業式を待って、2人で両家の親に適当な理由を付けて結婚相手は自分たちで決めたいと説得する。そういう約束だったよな」
「…うん。ごめん……」
その後、弥生から聞いた経緯はこうだった。
彼女には2年ほど付き合っていた恋人がいた。彼は弥生や颯真が通っていた大学の特別講師で、経済学部で講義を持っていた。本業は起業して4年目の観光ビジネス会社のCEOを務める人物。
その彼が仕事で海外へ行くことになったが、いつ帰って来られるかの目処が立たない。颯真との婚約を回避できたとしても、森野の家に縛られる限り彼との未来はない。
駆け落ち同然で誰にも告げずに日本を去ろうと、2ヶ月ほど前から入念に計画をしていたらしい。観光ビジネスを扱っているのなら、その辺の手配はお手の物だろうと颯真は思った。
彼について行くか、ギリギリまで悩みに悩んで決断したのだと話す弥生の瞳には、涙はあれど後悔の色はないのが見て取れる。今回の一時帰国も、その彼の仕事の都合について来たらしい。