激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
その日の夜、家に帰ると部屋は真っ暗だった。
帰宅の1時間程前に、千花から【電話出られなくてごめんね。今日は陽菜の家に泊まります。充電が切れそうだから返信は出来ないかも】というメッセージが届いていたため驚きはしなかったものの、なんだかもの寂しい気持ちになる。
結婚してから千花が外泊するのはこれが初めてだった。そもそも森野家は厳しく、学校の修学旅行や自分と行った新婚旅行以外で外泊をしたことがないらしい。
メッセージと一緒に送られてきたスタンプのパンダを見るに、相当楽しみにしているようだ。千花にとって初めての友人宅への泊まりなら快く送り出そうと、楽しんでくるよう返信をした。
キッチンからグラスとビールを持ってソファに座り、手酌で飲みながら今日1日を振り返る。
(まさか恋人とニューヨークに逃げていたとは…)
5年ぶりに会った弥生は、最初は罪悪感で暗い表情をしていたものの、帰る頃には幸せそうな顔で笑っていた。きっと恋人に愛されているのだろう。
無責任に一言も告げずに消えてしまった事実に多少の憤りを感じていたものの、昔なじみの同級生が幸せになっているというのはやはり嬉しい。
千花にも早くこの事を知らせてやりたいと思っていたのに、このタイミングで外泊とはなんとも間が悪い。友人との楽しい時間に水を差すのも可哀想で、弥生が帰って来ていることは言わなかった。
弥生の相当なシスコンぶりは同級生の中でも周知の事実だったが、当然千花も姉を慕っていた。一時帰国とはいえ戻ってきたと知れば、きっと喜ぶだろう。