激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

以前来た時と同じウィーン国際空港。空気がピンと張り詰めているのがわかるほど、12月のオーストリアは寒い。

クリスマス前とあって至るところにツリーやオーナメントが飾られており、前回見た景色と随分違って見えた。

(違って見えるのは、季節のせいだけじゃなさそうだけど)

自嘲気味にそんなことを考える。

あの時は急に変わった呼び方や手の繋ぎ方にいちいちドキドキしていた。弥生の身代わりの結婚だということをわかっていながら、それでも前向きにやっていこうと考えていた自分が、なんだかとても遠くに感じる。

(未練を断ち切るために始まりの場所に来るだなんて、矛盾してるって分かってるけど…)

千花はウィーンに来るまでの移動時間で調べたホテルにチェックインした。新婚旅行では颯真がすべて手配してくれたため超高級一流ホテルに宿泊したが、今回はそういうわけにはいかない。

しかし女性1人ということもあり、ある程度の治安の良さは確保したくて、交通の便の良いそれなりに老舗のホテルを予約していた。

案内された客室は清潔感があり、対応してくれたホテルスタッフも片言の英語しか話せない千花にとても親切にしてくれた。

(不安だったけど、案外1人でもやっていけるものなのかも…)

友達の家にすら泊まったことのなかった千花が1人で海外のホテルに宿泊するなど、結婚前には考えられないことだった。

< 139 / 162 >

この作品をシェア

pagetop