激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
千花はその場で大きくため息をつくと、他の展示には目もくれずに外に出た。
土産物屋を抜けるとアマリエ宮側の出口。中庭の中央にはいくつもの像が並び、その南側にはレオポルト宮がある。
そこを抜ければ新王宮に行けるので、せっかくならそちらを見て帰ろうと千花が足を進めた時、後ろからぐいっと腕を引かれた。
「きゃ…っ」
「やっと見つけた…!」
唐突に力強い腕に抱きしめられ、恐怖に身を竦ませたのも一瞬。
耳元に届いたのは聞き慣れた声。しかし、今ここにいるはずのない人のものだった。
「う……そ」
振り向かなくてもわかる、自分を抱き締める腕。左手には先日置いてきたものと揃いの指輪が今も輝いている。
千花は恐る恐るその腕に手を伸ばすと、見覚えのあるコートの袖ごとぎゅっと掴んでみた。
夢でも幻でもなく、なぜか1人で来たはずのウィーンで颯真に抱きしめられている。
呆然と佇み、頭の中は真っ白のまま。
「なんで…ここに……」
千花は蚊のなくような声で呟く。