激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
「弥生とは、何もない」
きっぱりとした颯真の口調に、千花はふるふると首を横に振る。
確かに今はそうなんだろう。この5年近くずっと姉は行方知れずだったし、颯真が千花と向き合おうと努力してくれていたのはよくわかっている。
だけど、弥生は帰って来た。
学生の頃からずっと婚約をしていたも同然のかつての恋人が帰って来たのなら、今後も何もないとどうして言い切れるだろう。
たとえ颯真がそう言ってくれたとしても、千花はとてもじゃないが耐えられそうにない。
『自分勝手なのはわかってる。何度だって2人に謝る。でも好きなの…、我慢できなかった…ごめん…ほんとに、ごめんなさい……』
泣きながら好きだと告げる弥生の声が耳から離れない。
ずっと比較されてきた優秀な姉。大好きだけど、千花が何をしたって敵わない存在。そんな彼女の影に怯えながらこれからの結婚生活を送るなんて考えられない。
「千花、聞いて」
俯いて首を振り続ける千花を宥めるように、颯真は努めて穏やかな声音で話す。
「今まで1度だって弥生に恋愛感情を持ったことはない。まぁ、弥生だってお互い様だって笑うだろうけど」
「……え?」
瞳に涙を溜めたままきょとんとする千花に、颯真は眉間に皺を寄せた。