激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

「本当に何も知らないまま…、実の姉の元恋人と結婚させられたと思ってきたのか…」

小さく低い颯真の声は聞き取りづらく、千花は彼を見つめて怪訝な表情を向ける。

「確かに千花も知っての通り、最初は両家の親が俺と弥生を婚約させようと動いてた。でも、俺達にそんな気は一切なかった」
「……」
「あの頃、学校中で俺と弥生が付き合ってるって噂になってるのは知ってた。誓って言うけどそんな事実はない。でも…何も言わないほうが面倒ごとを避けられると考えて、弥生と相談していちいち否定して回るのをやめたんだ」
「面倒ごと…」
「まぁ…、月城や森野の家の名前に群がってくる異性は減らせたんじゃないかな」

颯真が苦笑交じりにため息を吐いた。
初めて聞く話に、千花は驚いて何も言うことが出来ない。

「それに、あの時婚約を解消出来たところで、きっとまた別の縁談が勝手に持ち上がった。それなら波風を立てずにやり過ごして、時が来たら両親を説得しようって2人で決めてたんだ」

次々と語られる過去を理解しようと、目の前の颯真を縋るように見つめ話を聞き続ける。そんな千花の頬を、颯真は労るように撫でてくれた。

「だけど大学卒業と同時に弥生がいなくなって、千花との婚約話が持ち上がった。当然その時も反対した。姉がいなくなったからって妹だなんて何考えてるんだって」

自分の名前が出てきて、ビクンと身体が竦む。それでも颯真は千花の頬に触れるのをやめない。

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