激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
差し出されたケーキをぱくんと食べる颯真を見つめる千花の顔は、余程真っ赤で困った顔をしていたんだろう。颯真は苦笑して小さく呟いた。
「そんな顔を見せられたら、我慢が利かなくなりそうだ……」
「え?」
「…いや。ありがとう、確かに濃厚で美味いね」
親指で口元を拭いながら微笑む颯真の目が、やけに甘く色っぽく見える。
千花は「どういたしまして…」と返すも、トルテから目線を上げられない。
甘さの中にアプリコットジャムの酸味も効いていてとても美味しいザッハトルテ。それなのにもう千花には味がわからなくなってしまった。
(颯くん、どうしたんだろう。なんか、今までと雰囲気が…)
名前の呼び方、手の繋ぎ方、間接キス…。
今までと大きく違うわけではないし、決して嫌なわけではない。
なのに困ってしまうのは、もしかしたら自分が愛されているのではと夢を見てしまうから。
元々颯真は、婚約者だった弥生の妹である自分にも優しかった。
それが急に弥生が姿を消し、破談になるかと思いきや身代わりの千花と婚約することになってしまった。