激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす


(つ…疲れた……!)

少し人の波が落ち着いた瞬間を見計らいお手洗いに抜けた千花は、洗面台の大きな鏡の前で大きくため息を吐いた。

(男の人は颯くんと仕事の事ばっかりだし私は話に入れないから楽だけど、おばさま方の『子供は?』攻撃がえげつない…)

どこに挨拶に行っても、二言目には「お子さんが楽しみね」と言われる。

一昔前は新婚夫婦に掛けるありきたりな話題だったが、今の時代、デリケートなことだと子供については口を挟まないのが社会の暗黙のルールになってきた。

しかし、それを前時代の匂いを未だに纏う人たちに言っても詮無いことなのだろう。

そこには当然『月城の後継者』を求める思惑があるのを、千花だって十分察していた。

「子供は可愛いわよ」「産むなら体力のある若いうちが絶対にいい」といった、ありがたいアドバイスの中に含まれる圧力。

そのたびに颯真が「まだ2人きりを楽しみたいので、子供は追々」とフォローしながら濁しているのを、なんともいえない気分で聞いているしかない。

(なんだか、月城の後継者を産むためだけの存在だって言われてる気分……)

千花が大学を出たばかりという情報も当然ながら皆周知のことなので、「まだかなりお若いから、これからいくらでも時間はあるものね」「そうね。当然男の子は欲しいけど、女の子だっていると何かと安心だし」とおばさま方が当事者そっちのけで盛り上がり始めた時は、ため息を我慢するのに相当な労力を要した。


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