激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
しかし人の口に戸は立てられず、特に学生時代の2人を知っている人間からじわじわと噂が広がってしまっているのだろう。
どれだけドレスアップしようと、豪華なジュエリーをつけようと、付け焼き刃で良き妻を演じようと、やはり弥生には敵わない。
「さぁ。若さとか?」
「えぇーっ、そこぉ?!年齢以上に幼く見えるし、全然部長と釣り合ってないよね」
「まぁバランスは悪いわよね」
自分の価値は、先程嫌というほど聞かされた月城の後継者を産むのに便利な若さだけ。
一応声を抑えているのだろうが、控えめながらクスクス笑う声はなかなか止まない。
悔しいというよりも、悲しくて情けなくて、じわりと目に涙が滲む。
しかし、こんなところで泣いてメイクを崩したり、真っ赤な目をして会場に戻るわけにもいかない。
なんとか堪らえようと強く唇を噛んで耐えていると、空気が凍りそうなほど冷たく低い声が聞こえてきた。
「こんなところで一体何の話をしている」
可笑しそうな笑い声がピタッと止み、廊下は異様な雰囲気に包まれる。
「ぶ、部長…」
千花の位置からでは姿は見えず声しか聞こえないが、間違いなく不機嫌な颯真がそこに来たのだろう。