激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
約12時間のフライトを終え、ウィーン国際空港に降り立った。4月のウィーンはまだ少し肌寒い。
新婚旅行の行き先を提案したのは颯真だった。千花が無類のチョコ好きで、中でもザッハトルテが好きなので、それなら本場の味を堪能しようと言ってくれたのだ。
淡いピンクのスプリングコートの身頃を合わせる千花の手を取った颯真が、指を絡ませてきゅっと握り、穏やかな微笑みを向ける。
「千花、とりあえずチェックインして食事にしよう。長いフライトで疲れただろ」
名前を呼び捨てにされることにまだ慣れず、ドキンと胸が鳴った。今までは『千花ちゃん』と子供のように呼ばれていたのに、結婚式以来こうして『千花』と低い声で自分の名が紡がれるたび、心の中にむずがゆい感覚が広がる。
そんな感情を表に出すことなく、こくんと頷きながら「そうだね」と返事をし、繋がれた温かい手にちらりと視線を送った。
婚約が正式に言い渡されてから何度か出掛ける中で、いつの間にか手を繋ぐようになった。当初はたったそれだけのことにドキドキしていたが、自然とそれが当たり前になった。
指を絡ませることもない、親が我が子の手を引くようなその触れ合いのみが、颯真との距離感だった。
それなのに今日はなぜか、いわゆる『恋人繋ぎ』と言われる繋ぎ方をされ千花は驚く。
呼び方といい、手の繋ぎ方といい、些細なことではあるものの、どこか甘い雰囲気を感じてしまう。