激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

長身で強面な矢上だが、食育を大事にしたいという園長の教育理念に賛同して熱心に志願し働き出したという一面を持ち、女の子には怖がられるが男の子には大人気。主に戦いごっこの悪役として遊び時間は引っ張りだこなのをよく見かける。

「えっと…、栄養士の仕事も興味あったので…」

なぜ保育士にならなかったのかと問われれば、千花が両親に反対されたから。その理由は言わずもがな政略結婚する夫を支える良き妻になるためで、それをこの場でペラペラ話そうとは思えなかった。

隠したいわけではなかったが、今時22歳で結婚しているのは珍しい。
そう突っ込まれた時に政略結婚だとバカ正直に答えるのも虚しく、かといって何と答えるのが正解なのかわからず、出勤時に外す指輪をつけるのはいつも職場を出た後。今日もまだ付けていなかった。

そのため千花が既婚者だと知っているのは、陽菜と園長のみ。聞かれれば嘘をつこうとは思わないものの、誰も自分が結婚しているだなんて思いもしないだろう。

陽菜もそんな千花の心情を察しているのか、他の同僚がいる前で颯真の話題を出すことをしなかった。

「でもそのおかげで矢上さんは助かったでしょ?越智(おち)さんの後任が千花で」

やはりうまい返しが思い浮かばず中途半端な答えになってしまった千花をフォローするように、陽菜が会話を少しだけ逸してくれる。

越智とは栄養士として働いていた50代の女性。息子が結婚するのを機に旦那さんと一緒に田舎へ引っ越したいのだと春先に退職を願い出て、先月末に無事に退職した。

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