激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
初めて千花との婚約話を聞いた時は、開いた口が塞がらなかった。
元々両家の親同士が勝手に進めていたのは、千花の姉である弥生との結婚だった。
弥生とは同級生ということもあり、割と女子の中では親しくしていた方ではあったが、互いに1度も恋愛感情を抱いたことはない。
ただ親が乗り気だというだけで実際に婚約したわけではなかったが、どういうわけかこの類の話は人の噂に上るのが早い。
中学を卒業する頃には周囲は皆、颯真と弥生は付き合っていて、いずれ結婚するのだろうと思っているらしかった。
当初は聞かれれば否定していたものの、段々とそれも面倒になってきた頃、弥生と相談してしばらくは肯定も否定もしないでおこうという話になった。
今必死に否定し婚約を拒んでも、きっとすぐに両親から違う相手を見繕われてしまう。
それならば波風を立てずにやり過ごし、本格的に婚約を公にしようとなる前に両親に理由をつけて拒むなり別れたと嘘を付くなりしようと、いわば共同戦線を張ろうというものだった。
颯真も弥生も、異性から非常に人気がある。互いに親が決めた相手がいるのだと噂が流れるのは体の良い風よけにもなった。その真相を颯真が話したのは、中学時代から仲の良かった宮城のみ。
弥生もごく僅かな親しい友人にだけ話したようだった。あとはきっとシスコンの彼女のこと、妹の千花にも事情を説明したのだろう。
弥生は高校から大学までに何人か彼氏がいたようだが当然両親には隠していたし、颯真が友人として彼女と食事をした際は家まで送るなど森野家に対してカモフラージュもしていた。