激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
土産を渡すのを口実に食事に誘うのを繰り返し、いつしかそれは習慣になり、ついには自分だけに向けてほしいと願うようになった。
政略結婚に向けて意に染まない栄養学を専攻させられてなお、楽しそうに学んだことを披露してくれる健気な姿に胸が締め付けられた。
彼女が在学中は婚約期間ということで努めて紳士的に振る舞っていたものの、どれだけ自分のものにしてしまいたいと思っていたことか。
千花がこの結婚に何を思っているのかはわからない。だが、いつかは絶対に自分に振り向かせたい。
新婚旅行でウィーンを訪れた際、エリザベートの肖像画を前に、何か感じ入ったような顔をしていた千花。
その横顔を見つめながら、颯真もまたフランツとエリザベートの馴れ初めに想いを馳せていた。
皇太后の母からエリザベートの姉であるヘレネとの結婚を提案されていたものの、見合いの席で妹であるエリザベートに一目惚れし、フランツは周囲の反対を押し切り彼女を皇后に迎える。
その結果エリザベートは宮廷生活に馴染めず、旅に明け暮れ、孤独な生涯を送ることとなった。
彼女を愛していながら、夫としての自分と皇帝という立場との板挟みになり、守り切ることが出来なかったフランツ。
(俺は一生千花を守り抜いてみせる)
月城家に嫁ぐということがいかに重責であるか、一人息子である颯真は重々承知している。