激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
彼女がその日保育園であったことを夕食の時に嬉しそうに話してくれる時間が、颯真にとってもかけがえのない幸せなものだった。
しかし、懸念事項がないとは言い難い。
(男…だよな……)
千花の髪を撫でながら、颯真はローテーブルの上を見てため息を吐いた。
ソファの前のローテーブルには千花のノートとペン。ハロウィンのイベントにでも使うのか、かぼちゃやさつまいもなど秋の味覚を使ったレシピが図解と一緒にいくつも書き記してある。
その隣に置いてある彼女のスマートフォンには、通信アプリからの着信画面が表示されていた。
【さっき言ってたカフェ巡り、明後日の日曜はどうだ?】
戦隊モノの悪役のようなアイコンに『Yagami』という名前。きっと職場の同僚だろうことは想像がつく。それに、先程まで一緒に飲んでいたのであろうことも。
千花は高校3年生で婚約が決まると進路を女子大に変更させられ、22歳という若さで結婚した。
高校の頃に付き合っていた恋人がいたとはいえ、千花の身の回りに社会人の男性は颯真しかいなかったし、深い関係になったのも颯真のみ。
外の広い世界を知り、自分以外の男と関わるようになれば、いつか千花がこの結婚を後悔する日が来るのではないか。
仕事を始めれば他の男の目に触れる機会が増えることはわかっていたが、早速かと頭を掻き毟りたくなる。