激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす


その夜の会食はスムーズに進み、施設誘致の件でも有意義な意見交換が出来た。
相手をタクシーに乗せて見送ると、自分も千花の迎えに行こうと【今終わった】と彼女にメッセージを送る。急に迎えに行ったら驚かれるだろうか。

「…飲み会に迎えに来る旦那なんてウザがられないか?」

車を回してきた宮城が苦笑まじりにからかってくるのをじろりと睨みつつ、「遅い時間に1人で帰らせるのは危ないだろ」と言い訳じみた返答をした。

昨日千花から聞いていた居酒屋の近くで降ろしてもらい、店の前で待っていようとスマホを取り出す。まだメッセージを見ていないらしく未読のままだった。

(21時過ぎたし、もうそろそろ終わるか)

店の近くまで迎えに来たとメッセージを送るか迷っている間に、居酒屋の入っているビルの脇の階段から、男女4人が降りてきたのが見えた。

小柄な男が酔っているのか、左肩を長身の男が支えている。その様子を心配そうに見守っている妻の姿を見つけ、颯真はゆっくりとそちらへ歩みを進めた。

「……先生、大丈夫ですか?」
「おー、なんとかぁ」
「大丈夫だろ。気分悪くなさそうだし、足にキてるだけっぽい」
「珍しいですよね、山崎先生がこんなに酔うの」
「いやぁ、矢上を潰して恋バナでも語らせようと思ったんだけどさぁ。俺が先に潰れるっていうね」
「…アホか」

徐々に距離が近付くにつれ、彼らのやり取りが颯真の耳に鮮明に聞こえてくる。酔った男が発した『矢上』という名前に覚えがあった。

< 97 / 162 >

この作品をシェア

pagetop